馬鹿にしないで、 『歪な愛のカタチ』 「・・・・・・というわけだ、これで君の仕事は終わる」 「・・・さらっと言わないでください」 結崎ひよの、をもうすぐ終える女は深いため息をついた。 「そのための、結崎ひよのだった、と」 「そう」 「あなたは最初からそうするつもりで私をここに配置した」 「そうだ」 「何故最初に話してくださらなかったんですか」 「言ってしまえばキミが歩を信じることを迷ってしまうんじゃない かと思ってね」 「・・・・・・・・・この人でなし」 「わかってるよ」 鳴海清隆は肩を竦めた。 それが彼に似ていて、彼女はそれがとても気に入らなかった。 「情が移ったかい?」 「そんなんじゃないです」 「けど今辛いだろう?」 「死にそうなくらい」 「・・・・・・すまないことをしたね」 「謝るくらいならっ!」 抑えきれず叫んでしまった、 取り乱してしまった彼女はそれを恥じ、 胸を押さえて冷静になった。 「・・・・・・謝らないでください」 「・・・・・・」 「・・・もう、いいです」 世界が揺れている、あぁほらもうすぐ終わりが来るわ。 あんなに綺麗だったのに。 なんで、あんなに幸せだったかなんて、そんなこと、 「・・・・・・だから、最初に言っただろう? これは仕事だって、信じるのも仕事で、傍にいるのも使命、 そう、忠告したじゃないか」 「私はその時こう言いました、」 揺れる目で、光だけはっきり放つ、 「仕事だと思ってやってたら信じることなんて出来ません」 それが本当に、仕事では割り切れなくなって、 「・・・・・・好きになるのは、不毛だとも私は言った」 「不毛だからって諦められるなら、最初から好きになんてなってま せんよ」 「・・・そんなに好きかい?歩が」 「―――――えぇ、」 「世界一愛してます」 なんで幸せだったかなんて、それは彼の隣にいれたからだと、 「・・・・・・」 「もう、行きます」 「・・・・・・・・・キミは、」 「仕事ですから、ちゃんとあなたに従いますよ」 「・・・・・・ありがとう」 「あ、でも」 振り返って見せたのは不敵な笑顔。 「きっと、鳴海さんはあなたのこと殺しません」 「・・・・・・そうかい?」 「えぇ、絶対です。もし、あなたが鳴海さんに殺されたとしたら、」 「私はあなたを呪いますから」 そう残して、彼女はまた結崎ひよのになる。 彼に最後のお別れを、最後にもう一度、背中を押して。 「(・・・・・・・・・鳴海さん)」 最初から最後まで、裏切っていた私が、 あなたを本当に想っていた事を、 あなたは信じてくれるでしょうか。 今日、会って、そしたらまた明日会いに行こう。 神に勝ったあなたのところに行こう。 それが、本当の終わりになるとしても。 けれどそれは最後じゃなかった、 だから私は今この病室にいる。 彼の演奏を聴いている。 このただ白い病室で、響き渡るのはあなたの音だけで。 それだけしか存在しなくて。 そこで一個世界が確立してて。 そこには二人だけ。 ただ二人だけ。 あぁなんて幸せな、 二年前に戻されていくような、 あの時私たちの間にあったものの答えを、 この演奏が終わったら、あなたに聞いてみたいと思う。